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潜在的な偏見を減らす

翻訳、文書、コードベースに内在する偏見意識の改革

今、世界を脅かしているパンデミックは COVID-19 を発症させる新型コロナウイルスだけではありません。差別、特に人種差別は現在も社会全体に大きくのしかかっています。ここ数年、増え続ける抗議運動と、社会正義を求める組織・団体によって、明示的そして潜在的な偏見双方に対処する改革が強く求められています。

Kyriarchy (フェミニスト理論の造語で、支配、抑圧、服従を中心に作られた社会システムを指す) の厄介な副産物とも言える潜在的な偏見 (「暗黙のステレオタイプ」などとも呼ばれる)。人はときに、ほかの集団やその行動・態度を無意識のうちに低く評価してしまいます。言葉の一つ一つが意図しない偏見につながってしまうことがありますが、逆に、一語一語を注意深く選択することによって偏見を排除することができます。

ライオンブリッジでは、これまでも常に明示的な偏見の排除に努めてきましたが、こうした取り組みの一環として、近年では潜在的な偏見についてもより一層の注意を払っています。今回は、ライオンブリッジの経営陣と専門家に、より公平で誰もが参加できる社会を築くために言語が果たす役割についてお話を伺いました。

以下の Q&A には、次の方に参加していただいています。

  • ジェイミー プニシル (JP) - 最高マーケティング責任者
  • マーク アイエロ (MA) - ライフ サイエンス部門統括マネージャー
  • リサ イップ (LY) - ソリューション アーキテクト
  • ラファ モラル (RM) - 言語エンジニアリング部門 R&D 担当ディレクター
  • ブライアン ランドル (BR) - 北米戦略アカウント担当バイス プレジデント
  • クレア グッズウェン (CG) - 北米ソリューション担当シニア ディレクター

潜在的な偏見について、今人々の意識にどのような変化が見られますか?

JP: ここ数年の間に多くの人々が、自分が人種差別を行わなければそれでよいのではなく、反人種差別に積極的に取り組むべきであると考え始めたようです。権威や影響力のある立場にいる人は変化についてただ話すだけでなく、今こそ、積極的に自分自身の意識を変えていくときです。

MA: お客様や見込み客から、多様性 (ダイバーシティ) への取り組みや企業の社会的責任についてよく質問されます。多様性について質問が上がると、当然のように潜在的な偏見に話が及びます。ライフ サイエンス業界の視点で見ると、今、患者エンゲージメントの強化に向けた動きがあることから、非常に理にかなっていると言えます。製薬業界では、臨床試験のデザインから被験者の参加方法やサプライ チェーンの管理まで、あらゆる面での多様化を常に試みており、潜在的な偏見への対処もその一つです。

LY: 提案依頼書でも、多様性や包括性 (インクルージョン) に関する質問が多く見られます。このような質問の数は昨年中ごろから増え始めましたね。 

CG: ここ 1 年、特に過去 5 か月を見ただけでも注目の話題となっています。それ以前は、たまに話題になる程度でしたが、今では対処すべき問題として受け止められています。まだ対処できていないにしても、常に議題には上がります。#MeToo や BLM といった運動がきっかけとなって、自分自身が持つ偏見や世の中に根強く残る偏見をあらためて見直す人が増えています。 

RM: このようなサービスの依頼は間違いなく増えていますね。特に、ジョージ フロイドやブリオナ テイラーの殺害を受けて、警察の暴力に対する抗議運動が活発化した 2020 年以降です。 

「今こそ、私たち皆の価値がより世の中に反映されるよう、変化を起こすときです」 - ブライアン ランドル

言語における潜在的な偏見に対処するには、まず何から始めたらよいですか?

CG: まず先入観を取り払って、自分には無関係だという考え方を改めることです。偏見はすべての人々に影響を及ぼします。我々の業界に根付いている偏見については、我々自身が取り組まなければなりません。 

BR: こういったプロジェクトを検討している企業は、通常、2 つの課題を抱えています。明らかに偏見を示す過去の意思決定を修正することと、今後のワークフローを変更することです。特に後者は、包括性の高いスタイル ガイド を作成する良い機会となります。

RM: まずは、問題のある用語や表現を特定することです。これには、当社の意味的注釈付けサービスやカスタマイズされたトランスクリエーション サービスが効果的です。これらのサービスでは、ライオンブリッジの用語リストと併せて、お客様のリストやツールも使用できます。 

 

ライオンブリッジのこれまでの経験や実績は、潜在的な偏見を減らすためのプロジェクトにどのように役立っていますか?

LY: ライオンブリッジは長年にわたり、コミュニティ管理チームを通して多様性に富んだ多数のサプライヤーやベンダーと連携しています。プロジェクトやお客様によっては、言語サービス パートナー (LSP) がお客様の業務範囲を十分に理解できることが非常に重要であり、ライオンブリッジはこの点に非常に長けています。このようなプロジェクトに必要なスキルセットは、誰もが備えているものではありません。豊富な文化的知識に加え、多くの対話を持つことが必要となります。多くのお客様は、できるだけ早く変更を実施して欲しいと希望してきますが、品質を維持したまま対応するのはなかなか難しいものです。ライオンブリッジは豊富な専門家を取り揃えており、こうしたプロジェクトを品質を確保しつつ早期に完了することができます。 

MA: ライオンブリッジは言語管理のスペシャリストであり、この分野のさまざまなニーズに対応する幅広いサービスを提供しています。緊密に連携するパートナー ネットワークを活用すれば、あらゆるプランを何もない状態から作り上げることが可能です。たとえば製薬業界のお客様から、ライオンブリッジが提携するさまざまなプロバイダーにもプロジェクトに参加して欲しいとの依頼があれば、言語品質とベンダー選択双方のニーズを満たすリソース プランを作り上げることができます。

RM: ライオンブリッジではもう長い間、訳文に不適切な言葉が含まれることを避けるために、当社所有のツール「Linguistic Toolbox」を品質管理の一環として翻訳ワークフローに取り入れています。不快であると考えられる言葉をそれぞれの言語で検出し、適宜修正するための手順がプロセスとシステムに組み込まれているのです。このツールで使用する定義では、下品な言葉や、あからさまに人種差別や性差別、同性愛嫌悪を示す用語など、以前から一般的に不適切とされている言葉を特定できますが、この定義の範囲を広げるだけで、より暗示的な表現も含めることができます。

潜在的な偏見の認識と削減において、どのような障害が考えられますか? 

CG: 偏見を特定した後に重要となるのは「教育」であると思います。コンテンツ制作者の認識を高める必要があり、用語集や品質チェックがカギとなります。

防御的にならずに耳を傾けることですね。このような会話はよく、自分に対する個人的な評価のように受け止められがちですが、実際には、偏見は歴史の産物だと言えます。歴史上、人類は常に最も抵抗が少ない道を選んできたわけで、この話題はもう何年も置き去りにされてきました。なので、今最も重要なのは我々の現状ではなく、今後いかに改善できるかという点だと思います。

RM: 不快な言葉の多くは、文脈によっては特に不快とされない場合があります。こうした理由から、ライオンブリッジでは現在、マシン ラーニング モデルで曖昧性を除去する機能の開発を進めています。地名索引とマシン ラーニングを組み合わせて使用するアプローチは、不快なテキストの特定に非常に有効な手段です。地名索引を利用することで再現率が高まり、マシン ラーニングでは曖昧さをなくすことで誤検出を減らすことができます。

BR: ロマンス語など、単語に男女で異なる形式がある言語でも、性の区別なく使用される形式がある場合があります。たとえば、最近ではスペイン語を話すコミュニティで、ラテン系の男女をそれぞれ表す「Latino」と「Latina」ではなく、「Latinx」などと単語の末尾に「x」を付ける形式で両方を表すことが多くありますが、これが文法エラーや誤字として検出されることがよくあります。このように、偏見を特定できてもそれに代わる言葉を見つけるのは容易ではないケースがあります。

また対話においては、何かを誤った方法で行っていた担当者を除外するのではなく、むしろ積極的に会話に参加してもらった方が大きな進展を遂げることができます。

Hands and keyboard in the background of lights

ライオンブリッジでは、潜在的な偏見について具体的にどのような取り組みを行っていますか?

RM: ライオンブリッジでは、潜在的な偏見を減らすための調査と改善を継続的に実施しています。現在、偏見を分析して数値または評価を割り当てる方法を開発中です。

そのほかにも、下品な言葉や中傷以外の差別用語のリストを作成しています。こうした用語は、「landlord (家主、主人)」や「spokesman (スポークスマン)」といったよく使用されるものから、「spinster」や「old maid」 (いずれも、オールドミス) といった明らかに不快感を抱かせるものまで広範に及び、その多くが性の区別を暗示しています。 

MA: 業界で日常的に使用している言葉にも、人種差別から生まれたものが非常に多くあります。そのよい例が「White label (ホワイト ラベル)」や「blacklist (ブラックリスト)」です。その上、これらの名称はあまりわかりやすいものではありません。ライオンブリッジが抱える優秀な翻訳者と当社の洗練された翻訳ツールを活用することで、そのような用語をより現代的でわかりやすく、包括性の高い用語に「翻訳」していくことができます。

CG: 私は、お客様との会話がとても重要だと思います。企業は、あまりの規模の大きさにどう対処してよいのかわからない状態です。そのようなお客様には率直に「おっしゃるとおり道のりは長いですが、ライオンブリッジならさまざまな人材とツール、そしてソリューションを駆使して、お客様を一歩一歩お手伝いいたします」と伝えるのです。このように提示すると、お客様は喜んで積極的に会話に参加してくれます。言わば、救命ボートのようなものですね。 

潜在的な偏見を認識し、削減することが企業にとって重要な理由は何ですか?

CG: 今の世界は多様性に富み、その多様性によって社会により多くの価値がもたらされ、世界中がより一層つがなることができます。誰もが包括性を大切に考えながら、人はそれぞれ違うということを認識することが重要です。企業の観点では、メッセージができるだけ多くの消費者と「つながる」ようにする必要があります。企業がこの先 10 年において成功を収めるには、こうした変化の重要性を認識することが重要です。それによって、より多くのオーディエンスの心に響くメッセージを届けることができるのです。 

LY: 人の価値は、その外見だけで決まるものではありません。この取り組みは良い傾向ですし、正直、ようやくという感じですね。 

JP: 企業市民として当然のことだと思います。特にテクノロジー業界には、もっとできることがあるはずだという責任感が漂っています。企業は、採用活動において多様性と包括性に多額の投資を行っても、そうして採用されたソフトウェア エンジニアが目にするコードベースに未だに時代にそぐわない用語が含まれていたら、社員を人種差別や性差別を示唆する表現にさらすことになるため、包括的な職場とは言えません。

基盤をどう構築するかがとても重要です。すべてを今の世の中にふさわしく、文化的にも適切なものにするというプロセスは、その基盤によって左右されるからです。話すばかりではなく行動で示す時期がきており、いずれ、他社は行っているのになぜまだ未対応なのかと問われる時代がやってきます。

BR: どの企業もいずれは、こうした言葉が社員やお客様に与える影響について真剣に考えなければなりません。社員が連帯感を持ち、高く評価されていると感じられる環境を作り出すこと、そしてお客様にも同様に感じてもらうことです。今こそ、私たちの価値がより世の中に反映されるよう、変化を起こすときです。マヤ アンジェロウの名言を言い換えると、皆さんはやり方がわかっていたことを実践してきたわけです。つまり、知識を深めることで、より良いやり方を実践し、より良い結果を期待できるわけです。 

バスの中でスマホを見ている女性

ライオンブリッジでは、「世界中の障壁を打ち破り、架け橋を築く」という使命のもと、常にさらなる専門知識の習得と業務改善に努めています。差別的な背景を持つ言葉や表現の排除に対する当社の取り組みを通じたノウハウを活かし、お客様側でのこうした取り組みもお手伝いいたします。ぜひ当社までお問い合わせください。

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著者
April M. Crehan